* ラント-タンドランTO *

自作小説掲載のサイトです


「お前は、私をどう思うか?」

刃物のように鋭利な声が、広いホールに響き渡った。

「ご立派であると…王様。」

造りの良い椅子に腰をかけた、まだ若々しい王に近寄ると、女はその手に恭しく口づけた。





多くの国があり、多くの王がいた。
その中でもとりわけ広大な土地を持つ国の王と王妃が、流行り病でこの世を去った。
そして王子は王となった。
逞しい体、精悍な顔立ちに成長した新たな王は、自己中心的で気位の高い、横柄な振る舞いをする青年だった。
そしてその心根は、奥底まで冷え切っていた。

王子が王となって数日。
父母の死を笑顔で迎え入れた新王は、早くに手に入ったその地位を寵愛していた。
逆らう者は家臣をも殺し、国民の生活を顧みることもせず、ついには他国への侵略という名の戦争をも企てる始末。
王はすぐさま冷酷非道な暴君へと姿を変えた。
もちろんそんな王様を止められる者など、この国には存在しなかった。

新王誕生から一ヶ月経った頃、家臣との溝は修復不可能なまでに深まっていた。
王は、不服そうな態度をとった臣を次々に殺した。
そしてある日王が目を覚ますと、家来は一人としていなくなっていた。

王だけが、大きな城に残された。

食事の支度、掃除、洗濯、身の回りの世話をする者は勿論のこと、本国と他国の情勢の調査報告をする者、兵士達、誰もいなかった。
そこで、急遽家臣を募ることにした。すぐに人は集まると確信していた王は、この状況ですら笑っていた。
しかし、3日経っても志願する者は現れなかった。
味わった事のない空腹によって心身ともに疲弊した王様は、ほんの僅かな孤独を感じていた。

しかしその晩に、女は訪れた。
みすぼらしい身なりだが、落ち着いた雰囲気を纏った別嬪だった。
静寂が支配する広大な城の中を見回して、最後に痩せ細った王を見る。

「何も食べていらっしゃらないのですか?」
「食べてたよ…果物なら。でももうないんだ。買い方も分からない。」
「そうですか。」
「志願しにきたのか…?」
「はい。」

静かに頭を下げた女を見ながら、王は無表情で尋ねる。

「お前は……私をどう思うか?」

その言葉を聞いた女は王の傍に歩み寄ると、ゆっくりと微笑んだ。

「ご立派だと、王様。」

そして王の手をとりながら恭しく頭を下げ、そのままその甲に口づけた。驚いた王は目を大きくして、女を見下ろしていた。
顔を上げた女の顔は、女神のように優しかった。


その日から、女はたった1人の家来になった。






女が城で働くようになって、王は何不自由しなくなった。
食事も洗濯も調査も、王が命じれば女はそれに完璧に応えた。たった1人で国一つさえも滅ぼした。
王はそれになんの疑問も抱かず、至極満足していた。

そして王はさらに暴君になった。その卑劣さは以前の比ではなかった。
しかし女は、王の残忍な命令を受けると必ず言った。

「ご立派です、王様。」

そして王に跪いて、その手に口づけを送るのだ。
王はそれをとても嬉しそうな顔で受けていた。

しかし…王は日に日に衰弱していった。



それから一年の歳月が経った。
王はもう寝床から起き上がることが出来なくなっていた。
それでも王は言った。
「女…隣国を…潰して来い…」
しかし女は首を振った。
「王様。もうここ以外に国などございません。あるのは小さな村だけでございます。」
その言葉を聞いた王は、さらに言う。
「女…国民の税金を…あげろ…」
女は再び首を振って、
「王様。この国に住む民は貴方と私だけでございます。」
そう冷たく言い放った。
そして次の瞬間、王の目に映った女はエプロン姿ではなく、真っ黒なローブを纏っていた。


女は魔女だった。
この傍若無人な王を戒める為にこの国にやってきた。
女は王が非道な事を言えばキスを送った。そしてその時、少しずつ精気を吸い取った。


王は愕然として女を見た。
「魔女…か…」
それからふっと表情を和らげると、
「女…キスをおくれ…」
そう言った。

王は女からの口づけが、身体を蝕んでいくことに気づいていた。
それでも、王は女の口づけをいつだって待っていた。
魔女だって構わなかった。王は…女を愛していた。

僅かな気力を振り絞って、王は枕もとの水差しを地面に投げつけた。
ガラスの割れる音が響き渡る。
そして王は…

「見ろ女…私は酷い王だ…。とても…酷い王様なんだ…」

ガラガラの声で訴えた。
魔女は何とも言えない表情でそれを見ていたが、懇願するような王の視線を数秒受けると、そっと顔を近づけた。

「お前は…私をどう…おも…か…?」
「……ご立派です…王様…」

そのまま王の唇に、キスを送った。




そして王は意識を失った。
魔女はその腹の上に額をつけると、静かに泣き始めた。

「馬鹿な王様…」

王がわざと酷い行いをしていることは分かっていた。それが己の所為である事も。
だから魔女は国を去ろうと思った。でも、出来なかった。
この男のもとを離れたくなかった。
魔女もいつしか、王を愛していた。


魔女は何かを決めたようにスッと立ち上がると、その口からフーッと息を吐き出した。それは王から吸い取り続けた精気だった。その吐息は世界全土に行き渡った。
それから最後に、王に口づけた。


「私も馬鹿な女になりましょうか…」


その日、暴君と魔女は国から姿を消した。






数年後、また幾つもの国々が栄えだし、あの国にも民が戻った。
そしてその民の中から1人が選ばれ、新たな王が国を支配していた。
あの国は今も戦を繰り返していた。

戦車が行き交い、鉄砲の乾いた音が騒がしく鳴り響く。
あの国の一つの隊が前進の合図を受け、敵国へと出陣しようとしたその時、真昼の太陽に隠れて何かが上空を飛んでいた。
そして…
















眩しすぎる光の筋が地表へ降り注ぎ、隊ごとあの国を全滅させた。


















静かになった国の上に、笑い声がする。



「王様は1人で十分だよ。」
「勿論、家来もね。」






1人の王と1人の家来のお話。